第175章 背後の傷

「……あっ」

悪夢に叩き起こされ、狩野姫空は息を呑んだ。自分が薬で意識を奪われ、廃れた倉庫へ連れ込まれる夢――そう思った。

だが、荒い呼吸を整えた瞬間、現実だと悟る。

椅子に縛りつけられていた。周囲は墨を流したような闇。鼻を刺すのは、鉄錆の匂いだけ。

……夢じゃない。ほんとに、誘拐されたんだ。

姫空は必死に身をよじった。けれど縄はびくともしない。

久野白に嵌められた、あの時の記憶が背筋を冷やす。

あの時はたまたま正木修羽に電話が繋がって、助かった。

でも今回は、何の備えもない。

兄さんたちが帰りを待って、戻らないことに気づいても――どこにいるかなんて、分かるはずがない。

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