第210章 正木心歌の判決書が下りた

正木稲巳は、頭の中が真っ白だった。

彼は力任せに林田守萌を突き放し、起き上がると浴室へ向かった。

――落ち着け。とにかく、冷静になれ。

浴室に入るなり、冷水の蛇口をひねる。頭から足先まで、容赦なく浴びた。

それでも。

意識ははっきりしているのに、昨夜の出来事だけが、ぽっかり抜け落ちている。

覚えているのは、五味孝が裁判所の判決書を持ってきたことまで。

その先は、何一つ思い出せなかった。

ベッドに横たわったままの林田守萌は、みっともなく逃げるように去っていく正木稲巳の背中を見送り、口元に得意げな笑みを浮かべた。

目的は果たした。

あとは正木稲巳の子を宿せば――正木奥様の座は...

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