第25章 偏愛は偏愛だ

狩野姫空は林田守萌を見つめたまま、何も答えなかった。

林田守萌は勝手に言葉を続ける。

「稲巳が言ってたの。たとえ離婚しても、あんたにはみっともなく出ていってもらうって。稲巳、あんたのこと……憎んでるって」

狩野姫空の表情は静かなまま、微塵も揺れない。

正木稲巳は言った。――自分は騙されていた、と。

あのとき助けたのは、狩野姫空ではなかった、と。

最初は意味が分からなかった。けれど、正木稲巳と林田守萌の、何度も何度も線を越える距離感を見て、すべて腑に落ちた。

正木稲巳を救った件を知っているのは、林田守萌だけ。

なら、事実をひっくり返すのも簡単だ。

林田守萌が裏で糸を引いたのだ...

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