第30章 万事には必ず始まりがある

狩野姫空は正木稲巳を見つめていた。

正木稲巳はベッドボードの壁に目をやり――しばらくしてから、ようやく視線を引っ込めた。

姫空は、てっきり結婚写真のことを聞かれると思っていた。だが、何も言わない。

……きっと彼は覚えていないのだ。あの壁に、かつて二人のウェディングフォトが掛かっていたことすら。

「……お前の荷物、いくつか見当たらないが」

「使わないから捨てた」

姫空は短く答えた。

「確かに、場所は取るな」

正木稲巳が、付け足すように言う。

姫空は返事をしなかった。

場所を取るのは『物』じゃない。――私、なんでしょう。

そのとき、正木稲巳のスマホが鳴った。

この時間にか...

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