第35章 正木司朗が病気になった

狩野姫空の顔色が、瞬く間に曇った。

正木稲巳という男を、彼女は痛いほど知っている。口にしたことは必ず実行する。

ノキ研究所を巻き込むわけにはいかない。乃亜兄さんだって同じだ。

それに――まだ稲巳とは離婚の手続きを終えていない。薬の研究開発の世界でも、彼女はまだ「狩野姫空」として足場を固め切れていない。こんな時期に身元が露見するのは、避けたかった。

姫空は立ち上がり、着替えだけ済ませた。けれど、すぐには病院へ向かわない。

そして、夜が白む前に病院へ着いた。

病室には、正木稲巳、正木心歌、梅崎静が揃っていた。

「司朗は? どうなの?」

姫空が問うと、梅崎静は冷ややかに目を細める。...

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