第44章 お前は今でも正木の奥様です

車内で、正木稲巳は終始黙ったままだった。狩野姫空も、わざわざ口火を切る気にはなれない。

静けさが、妙に息苦しい。

胸の奥がもやもやして、姫空は窓の外へ視線を逃がした。車の流れ、眩いネオン、行き交う人の気配。濃い生活の匂いに触れると、沈んだ気分が少しだけ薄まる。

「お前と狩野乃亜、結局どういう関係だ」

稲巳の冷えた問いが、その静寂を切り裂いた。

「友だち」

姫空の答えは、これ以上ないほど簡素だった。

「友だち?」

稲巳が低く言い直す。信じていないのが、声の重さで分かる。

「どんな友だちが、オークションでお前のために天灯を上げる」

「正木稲巳、勘違いしてるんじゃない? 私にそ...

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