第49章 離婚手続きができなかった

狩野姫空は離婚協議書を、バンッとテーブルに叩きつけた。

こんなふうに感情を爆発させたのは――七年で、これが初めてだ。

正木稲巳の目にも、久野白や若井京の目にも、狩野姫空は「怒らない女」だった。恋に溺れて、相手の顔色ばかりうかがうタイプ。

正木稲巳が何をしても、いつだって媚びるように笑っていた。

それが今はどうだ。

空気がひりつくほどの怒気を、隠そうともしない。

「離婚協議書?」

正木稲巳はそれを見下ろし、狩野姫空の冷えた視線を受け止める。瞳の奥に、鋭さが走った。

狩野姫空は鼻で笑う。

「自分でサインしたものまで、忘れたわけ?」

正木稲巳は手を伸ばして協議書を取り上げ、ぱら...

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