第56章 利己

狩野初は足を滑らせ、そのまま床に転がった。

それでも、腕の中のドリアンケーキの箱だけは、ぎゅっと抱えたまま離さない。

正木司朗は自分が悪いことをしたなんて、これっぽっちも思っていない。狩野初がまだケーキを守っているのを見るなり、腹を立てて突進し、奪い取ろうとした。

「よこせ」

狩野初は必死に抱え込み、どうしても渡さなかった。

次の瞬間、正木司朗が狩野初の腕に噛みついた。

「っ……!」

狩野初は痛みに声を上げたが、それでも手を放さない。

正木司朗はますます力を込めて噛み続ける。

買い物袋を提げて戻ってきた狩野姫空が、ちょうどその光景を目にした。

「初!」

姫空は駆け寄り、...

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