第2章

チャイムが鳴った瞬間、私は席を立った。

さあ、演技の時間だ。

「オフィーリア」

私は春風のように穏やかな声を出しながら、彼女へと歩み寄った。

「改めて自己紹介させてちょうだい。私はコーデリア・アシュワースよ」

彼女は私を見上げた。その瞳に驚きの色が揺らめく。そして浮かんだのは、警戒し、こちらの出方を窺うような表情――まさに、前世で見たあの顔だった。

「お……お姉様?」

彼女の声は震えていた。まさか声をかけられるとは思ってもいなかった、という風に。

「てっきり……私のことなんて、嫌っていらっしゃるかと……」

完璧な演技ね。

私は手を伸ばし、そっと彼女の手を取った。冷たくて柔らかく、どこか壊れそうな手触りだった。

「どうして嫌ったりするの?」私は温かい笑みを向けた。「私たちは家族でしょう?」

内心では冷笑していた。お芝居がしたいのなら、付き合ってあげるわ。

周囲の生徒たちは、心からの温かい眼差しで見守っている。この姉妹の再会劇は、さぞかし感動的な光景に映っていることだろう。

「本当ですか?」オフィーリアの瞳が涙で潤む。「ずっと不安だったんです……私の存在なんて、疎ましく思われるんじゃないかって……」

「そんなことないわ」私は優しく彼女の髪を撫でた。「これからは私が、しっかり面倒を見てあげるからね」

口にしながら吐き気がしそうだったが、私は演技を続けた。

昼休みになった。

私はオフィーリアを学校の食堂へと案内した。セント・キャサリン学院の食堂は、食堂というより高級サロンのようだ。クリスタルのシャンデリアが白布のかかったテーブルを照らし、制服姿の生徒たちが優雅にアフタヌーンティーを楽しんでいる。

「うわぁ……」オフィーリアが目を丸くする。「すごく綺麗……」

「すぐに慣れるわよ」私は彼女のために椅子を引いた。「何を飲む? ここのアールグレイは絶品よ」

「アールグレイ?」彼女はおどおどとした様子を見せる。「私……そんな紅茶、飲んだことなくて……」

貧乏育ちという設定も完璧ね。

「大丈夫、私が注文してあげる」私は給仕に合図を送った。「アールグレイを二人分、お願い」

紅茶が運ばれてきた時、ショーの幕開けが近いことを悟った。

前世では、このタイミングで彼女が「うっかり」私のティーカップをひっくり返したのだ。そして必死に謝罪し、その怯えきった姿を周囲に見せつけた。私が少しでも嫌な顔をすれば、哀れな庶子の妹をいじめる高慢な貴族令嬢だと思われてしまう。

案の定、彼女がティーカップに手を伸ばした瞬間、「うっかり」私のカップに手が当たった。

熱い紅茶が私の制服へと飛び散る。

だが、今度の私は準備ができていた。

紅茶が服にかかった瞬間、私は即座にテーブルのナプキンを取り、優雅な手つきでシミを押さえながら、軽やかに笑ってみせた。

「あら、やだ。気にしないで。私ったら、いつもこうやってドジを踏んじゃうのよ」

私は隣にいるエマに顔を向けた。「エマ、ロッカーから予備の制服を取ってきてくれるかしら?」

「もちろんだわ!」エマはすぐに席を立った。

「ご、ごめんなさい! 本当にわざとじゃなくて!」オフィーリアは涙目で、慌てふためいて立ち上がる。「私……緊張してて……」

「本当に大丈夫よ」私は優しく彼女の肩を押し、座らせた。「新しい学校での初日だもの、緊張するのは当たり前だわ。私だって、入学初日は粗相をしたものよ」

周囲の生徒たちからは、私の寛容さと優しさを称賛する声が上がる。

オフィーリアの瞳に、困惑の色が走ったのが見えた。

彼女の小賢しい企みは、期待した効果を生まなかったようだ。私を冷酷で高慢な女に見せるはずが、逆に私の慈悲深さをアピールする絶好の機会となってしまったのだから。

「コーデリア様って、本当に優しい方ね……」

「庶子の妹にあんなに親切にするなんて、なんて慈悲深い……」

「さすがは公爵家のご令嬢、品格が違うわ……」

耳に入ってくる賞賛の声に、私の気分は高揚した。

前世では、第一ラウンドはオフィーリアの勝ちだった。けれど今回は――私の勝ちよ。

午後十時、私は帰宅した。

ロンドン郊外に佇むアシュワース家の屋敷は、月明かりの下、古風なヴィクトリア様式の建築が厳格さと威厳を放っている。重厚なオーク材の扉を押し開けると、リビングルームにはまだ明かりがついていた。

お父様はソファに腰を下ろし、その向かい側にはオフィーリアが座っていた。

彼女は制服から質素な白いワンピースに着替えていた。肩に流れる髪が、いかにも儚げで、守ってあげたくなるような雰囲気を醸し出している。

「お父様」私は歩み寄り、優雅に膝を折って挨拶をした。

「コーデリア、戻ったか」お父様の声は温かかった。「こっちへ座りなさい。オフィーリアのことで話があるんだ」

私はお父様の隣に腰を下ろしながら、微かな違和感を覚えた。

以前なら、ここは私の特等席だった。お父様は私の学業について尋ね、学校での出来事に耳を傾けてくれたものだ。

しかし今、その意識は完全にオフィーリアへと向けられている。

「オフィーリアから聞いたよ。今日、学校でよくしてやってくれたそうだな」お父様は満足げに頷いた。「君たちが仲良くやってくれていて、私も嬉しいよ」

「当然のことですわ」私は微笑みを絶やさずに答えた。「私たちは家族のですから」

「ああ、家族だとも」お父様はその言葉を噛み締めるように繰り返し、オフィーリアに向き直った。「だから遠慮することはないんだよ。ここは君の家であり、コーデリアは君の姉なのだから」

「ありがとうございます、お父様……」オフィーリアは瞳を潤ませ、消え入りそうな声で言った。「夢にも思いませんでした……私にこんな温かい家族ができるなんて……」

お父様の瞳に、罪悪感の色が滲んだ。

「すべて私の責任だ」彼はおずおずとオフィーリアの髪を撫でた。「長年、辛い思いをさせてすまなかった。これからは、その分を取り戻せるよう尽くすつもりだ」

取り戻す、ですって?

私は胸の奥で何かが音を立てて壊れるのを感じた。

「コーデリア」お父様が私を向き、その声色が真剣なものへと変わる。「オフィーリアは転入したばかりで、知り合いもいない。君が面倒を見て、新しい環境に馴染めるよう助けてやってくれ」

「承知いたしました、お父様」

「それから」お父様は続けた。「もし学友たちがオフィーリアに冷たく当たるようなことがあれば、君が守ってやるんだ。彼女もアシュワース家の一員だ。不当な扱いを受けさせるわけにはいかない」

私は頷いたが、心からは血が流れていた。

前世では、お父様が私にこれほど優しい声をかけてくれることなどなかった。学校で理不尽な目に遭っても、ただ冷たくこう言い放つだけだった。

「アシュワースの跡取りたる者、それしきのことで弱音を吐くな」

なのに今、彼はオフィーリアにこれほどまでの慈愛を注いでいる。

「お姉様、今日は学校で助けてくださって、本当にありがとうございました」オフィーリアが不意に立ち上がり、私に深々と頭を下げた。「私の存在が、お姉様に複雑な思いをさせてしまっていることはわかっています……でも、決してご迷惑はおかけしませんから……」

涙が頬を伝うその姿は、無力で、痛々しいほどいじらしく見えた。

お父様は慌てた様子で立ち上がった。

「オフィーリア、そんなことを言うものではない。君は私の娘であり、ここに住む権利があるのだ。誰にも君に疎外感を抱かせる権利などない」

そう言いながら、お父様の視線が一瞬、意味ありげに私を捉えた。

私は悟った。

これは、オフィーリアをいじめるなという私への警告なのだと。

前世の私は何も理解せず、ただ純粋に彼女を妹として愛そうとした。けれど今ならわかる。彼女がこの屋敷に足を踏み入れた瞬間から、お父様の心における私の居場所は、すでに揺らぎ始めていたのだ。

罪悪感とは、強力な武器だ。

そして彼女は、庶子の娘に対するお父様の罪悪感を、完璧に使いこなしている。

「もう夜も遅い。二人とも、もう休みなさい」お父様は立ち上がった。「オフィーリア、何か必要なものがあれば、遠慮なく執事に申し付けるといい」

「ありがとうございます、お父様」

お父様が二階へ上がっていくと、リビングルームには私とオフィーリアだけが残された。

彼女は涙を拭うと、ふいに顔を上げて私を見た。

その瞬間、私は彼女の素顔を見た。

そこにはもう、哀れで儚げな少女の姿はなく、あるのは勝者の優越感だけだった。

そして彼女は踵を返して二階へと向かい、私は広いリビングに一人取り残された。

私は拳を固く握りしめた。

前世のオフィーリアは、こうやって少しずつお父様の愛情を奪っていったのね。私が彼女に嫉妬し、虐げていると思い込ませ、ついには私を完全に見限らせた。

でも、今度は違うわ。

オフィーリアが丁寧に積み上げたすべてが、目の前で崩れ去っていく様を見せてあげる。

かつて、彼女が私にしたようにね。

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