復讐令嬢、もう誰にも踏まれません

復讐令嬢、もう誰にも踏まれません

大宮西幸 · 完結 · 22.4k 文字

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紹介

私は、誰もが羨む名門公爵家に生まれた。
長年、完璧な令嬢として生きてきた――賞賛され、守られ、傷つくことのない存在として。

あの日までは。

屋敷に、一人の気弱な少女がやって来た。
彼女はいつも俯き、口を開くことすらためらっていた。
絹の服を着たこともなく、テーブルマナーを学んだこともない。
私はてっきり、使用人の子だと思い、笑い方や礼儀作法を教えてやった。

それが助けになると、信じていた。

けれど、彼女が私の通う学園へ転入した途端、変わった。
泣くべき時に涙を流し、言うべき言葉を選び、周囲の心を巧みに掴んでいった。
そして、皆が彼女の味方になった。

やがて、真実を知ることになる――彼女は使用人の娘ではなく、父の隠し子だったのだ。

そして彼女は、私からすべてを奪った。

それが終わりだと思った。

だが、目を覚ましたとき、時は巻き戻っていた。
すべてが、やり直しの始まりだった。

チャプター 1

 甲高い学園の予鈴が、私を深い闇の底から現実へと引き戻した。

 弾かれたように顔を上げる。空気を求めて喘ぎ、冷や汗がシャツをぐっしょりと濡らしていく。心臓はまるで胸から飛び出さんばかりに、肋骨を激しく叩いていた。

 あの息が詰まるような感覚、押し潰されそうな絶望、そして……あの汚い手……。

 私は反射的に自分の体を抱きしめ、抑えようのない震えに身を任せた。

「コーデリア、大丈夫?」隣の席のエマが、心配そうに顔を覗き込んでくる。「悪い夢でも見ていたの? 涙が……」

 頬に触れると――濡れていた。

「ええ……ただ……」声が震える。「とても恐ろしい夢を……」

 けれど、どうしてこれほど生々しいの? あの路地裏の悪臭が鼻をつき、制服が引き裂かれる音がまだ耳に残っている……。

「叫ぶんじゃねえよ、嬢ちゃん。誰も助けに来やしねえぞ……」

「いつも偉そうにしてたじゃねえか? 今はどうだ、ええ?」

「お前の可愛い妹が俺たちを寄越したんだよ……お前が欲しがってるってな……」

 吐き気を堪え、私は口元を押さえた。

 あの男たちの声、汚い言葉が頭の中で響いている。あの荒い手の感触、心が壊れそうな苦痛、そしてもう死んでしまいたい気持ち……。

 乱れた衣服、涙に濡れた顔で教室に戻った時のこと。クラスメイトたちの表情が、同情から軽蔑へと変わっていったあの瞬間を鮮明に覚えている……。

「あいつらとヤったんだってよ……」

「最低……」

「公爵令嬢ともあろうものが……」

 受話器越しに響く、お父様の冷徹な声。「コーデリア、君に言葉にならないほど失望した。もはやアシュワース家の跡取りたる資格はない」

 その直後に襲ってきた、あの激痛。体は痙攣し、冷や汗が流れた。この机の上で突っ伏し、世界が遠のきながら、命が消えていく感覚だった……。

「コーデリア? 本当に大丈夫?」エマの声が、私を現実へ引き戻す。「保健室に行ったほうがいいんじゃない? すごく辛そうよ……」

 首を横に振り、必死に自分を落ち着かせようとする。ただの夢。そう、ただの夢よ……。

 けれど、なぜこの苦しみがこれほどリアルなの? 死ぬ直前の、あの窒息感さえ覚えているというのに……。

「エマ」私は震える声で尋ねた。「今日は何月何日?」

「九月十五日だけど」エマは不思議そうな顔をした。「新学期が始まってまだ二週間じゃない。日付も忘れちゃったの?」

 九月十五日……。

 嘘……ありえない……。私が死んだのは、間違いなく年末だったはず。十二月、冬休みに入る直前で……。

 鼓動が早まる。ありえない考えが脳裏をよぎり始めた。

 その時、教室の扉に近づく微かな足音が聞こえた。

 機械的に顔を上げると、入り口で躊躇う見覚えのある姿が目に入った。

 時間が凍りついたようだった。

 彼女だ。

 オフィーリア。

 入り口でうつむき、鞄のストラップを握りしめて立っている。肩にかかる柔らかな栗色の巻き毛、皺ひとつない真新しい制服。その姿はとても小さく、無垢に見えた。

 まるで……まるで、初めて会ったあの時のように……。

 違う。こんなことがあっていいはずがない。

 私は死んだ。はっきりと死を記憶している。あの痛みも絶望も、すべて現実だったはず。

 なのに、なぜオフィーリアがここに? まるで今来たばかりのような顔をして?

 先生が入ってきて、入り口にいる彼女に気づく。

「皆、新しい転入生を紹介するよ。オフィーリア・ホイットモアさんだ。ロンドンの全寮制学校から転校してきたんだ。仲良くしてあげるように」

 その言葉を、私は聞いたことがある。

 一言一句、違わない。

 口調も、間の取り方も、先生の表情さえも――すべてが記憶と完全に一致していた。

 生徒たちの視線が好奇心と共にオフィーリアに注がれる。彼女はおずおずとお辞儀をし、蚊の鳴くような声で言った。

「はじめまして、オフィーリアです。よろしくお願いします……」

 その仕草も、言葉も――まったく同じ。

 手の震えが激しくなった。

 夢じゃない。幻覚でもない。

 すべてが繰り返されている。すべてが始まりに戻ったのだ。

 私は……生まれ変わったの?

 本当に、死に戻ったというの!?

 激しい喜びが湧き上がり、思わず声を上げて笑いそうになった。

 死に戻り!

 それがどういうことか、わかっているわ。やり直せるということ。すべてを変えるチャンスが巡ってきたということ!

 復讐のチャンスが!

 入り口に立つあの無垢な少女を見つめると、胸の奥で復讐の炎が燃え上がった。

 前の人生で、オフィーリアは私の優しさと信頼を利用し、私を破滅させた。あの恐ろしい罠を仕掛け、あの男たちに襲わせた……。

 拳を固く握りしめ、爪が掌に食い込む。

 彼女は私に地獄のような苦しみを味わわせ、絶望の中で死なせた。名誉も、尊厳も、命さえも奪った。

 でも、今回は違う。

 今度はわかっているもの。彼女の正体も、その手口も、すべての企みも。

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