第1章

北野羽月視点

L市四季ホテルのプレジデンシャルスイート。薄暗い照明が、すべてを非現実的に感じさせた。頭がくらくらして、体が火照る。一体、橋本日葵は私のシャンパンに何を入れたの?

でも、今はどうでもよかった。ただ、目の前の男が欲しかった。

黒木涼はひどく酔っていて、その茶色の瞳は欲望に濡れていた。彼が大きな手で私の体をまさぐると、私も熱心に応えた。もうどうでもいい。今夜はめちゃくちゃになろう。

「んんっ……羽月……」

彼が酔った声で呻いた。

私は彼に跨り、自分のすぐ下に彼の硬さを感じた。薬のせいで理性を超えて大胆になった私は、彼のそれに体を沈めた。満たされる感覚に、思わず嬌声が漏れる。

「あぁ……おっきい……」

私は喘ぎながら、腰を上下に動かし始めた。

彼の両手が私の腰を掴み、酔ってはいるものの、本能的に私のリズムに合わせてくる。目の前で私の胸が揺れると、彼は手を伸ばし、乱暴にそれを揉みしだいた。

部屋は、私たちの荒い息遣いと、肌と肌がぶつかり合う音で満たされていく。一突きごとに快感の波が神経の末端を駆け巡り、汗が鎖骨を伝って流れた。

「そう……もっと、強く……」

私は腰をくねらせ、彼の突き上げに応えた。

こんなに乱れたのは初めてだった。この感覚……最高に気持ちいい。

まさに絶頂に達しようとした――その時。

頭をハンマーで殴られたかのような衝撃が走った!

一連の映像が、目の前を駆け巡る。

咲弥!私の咲弥が!ピンクのドレスを着て、よちよち歩きをしていたまだ三歳の娘が、突然倒れて口から泡を吹いて……。

「事故だったのよ、羽月ちゃん。子供が小さすぎて、変なものでも食べちゃったのね」

橋本日葵の偽善的な顔が目の前で揺らめく。

でも、私は真実を知っている!彼女が咲弥のミルクに毒を入れたんだ!私の娘を殺したんだ!

そして私自身も……撮影現場でハーネスが突然切れ……二十メートルの高さから落下……。

あれは事故じゃない!橋本日葵だ!全部、橋本日葵の仕業だ!

津波のように前世の記憶が押し寄せてきた。継母の橋本日葵に薬を盛られ、間違って黒木涼のルームに入ってしまい、一夜の関係からのできちゃった結婚、礼儀正しいだけの冷めた三年間、咲弥の悲劇的な死、私の鬱、そして最後の「事故死」。前世のすべてを思い出した。

その瞬間、絶頂が爆発した。体は激しく痙攣し、爪が黒木涼の胸に深く食い込む。情欲と復讐の怒りの狭間で、私は未だかつてないほどの快感の頂点に達した。

私、生まれ変わったんだ!そうよ、生まれ変わったんだ!

夜が明けた。分厚いカーテンの隙間から朝日が差し込む頃、私は黒木涼の上から転がり落ちた。体はだるく、薬の効果も切れ始め、意識が徐々にはっきりしてくる。

落ち着いて、北野羽月。あなたは三年前の自分に戻ったの。すべて、やり直せる。

黒木涼も目を覚まし、こめかみを押さえながら起き上がった。明らかに二日酔いだ。

「私……」

私はシーツを体に巻きつけ、急に気まずくなった。

「昨日の夜、私たち……」

くそっ、どう切り出せばいい?私たちはセックスしたばかりで、しかも私は薬を盛られていた。

「気にするな」

黒木涼の声は嗄れており、ひどく酔っていたことがうかがえる。

「お互い大人だ。こういうことは……よくある」

突然、ドアの外が騒がしくなった。

「急げ!北野羽月がこの部屋に泊まったって情報だ!」

「撮れたか?これは大ニュースだぞ!」

全身の血が凍りついた。橋本日葵の罠だ!

前世のこの光景を、私ははっきりと覚えていた。週刊誌のカメラマンが乱入し、ベッドにいる私たちの写真を撮られた。後になって私たちは体面を保つために恋人関係を発表したけれど、私のキャリアは二度と浮上しなかった。

でも、今回は……。

「黒木さん」

私はパニックを装った。

「外にいるの、記者たちです!もし撮られたら……」

黒木涼の酔いは一瞬で半分ほど醒めたようだ。彼は警戒するようにドアの方を見ると、素早くベッドから出て服を着始めた。

「怖がるな」

彼はシャツのボタンを留めながら言った。

「俺が何とかする」

「でも……これじゃ私の評判が台無しに……」

私はか弱さを演じ、目に涙を浮かべた。

「私、まだ若いし、これからのキャリアが……」

私の言葉を聞いて、黒木涼は服を着る手を止め、私を深く見つめると、思いがけず私の手を握った。

「なら、世界中に俺たちが付き合ってるって知らせればいい」

彼の声は、異常なほど固かった。

「俺が君を守る」

え?前世でも彼はそう言った。でも、それはもっと仕方なく選んだ感じだった。なのに今は……どうしてそんなに真剣な表情をしているの?

「本気ですか?」

私は探りを入れた。

「あなたの評判にも影響が……」

「間違いない」

彼はシャツと長ズボンを身につけ、私の言葉を遮った。

「信じてくれ、北野羽月。一緒に乗り越えよう」

彼の毅然とした横顔を見ていると、胸の内に奇妙な感情が芽生えた。

ふむ、そこまで協力的だというのなら、完璧な逆襲劇を演じてやろうじゃないか。

午前十時、ホテルのエントランスは戦場と化していた。数十人のパパラッチがカメラや望遠レンズを構え、そのフラッシュが目をくらませる。

私は昨夜の黒いイブニングドレスを着ていた。多少しわになってはいるが、まだ優雅さは保っている。黒木涼と腕を組み、胸を張って出口へと歩いた。

ドアを開けた瞬間、記者たちは血の匂いを嗅ぎつけたサメのように群がってきた。

「北野さん!北野さん!黒木さんとの関係は!?」

「昨夜、部屋で何をしていたんですか!?」

「あなたが愛人だという話もありますが、どうお考えですか!?」

最後の質問を聞いて、私は内心で鼻で笑った。

愛人?私はアカデミー賞女優よ!

そう言い返そうとした矢先、黒木涼が突然立ち止まり、すべてのカメラの前で、私の手を固く握った。

「それには私が答えます」

彼の声は明瞭で力強かった。

「北野羽月は、私の彼女です。私たちは真剣に付き合っています」

彼女?前世では、ただ付き合っているとしか言わなかった。こんな親密な言葉は使わなかったのに!

周囲からカメラのシャッター音とどよめきが沸き起こった。

「黒木さん、本当ですか?これは公式発表ということでよろしいですね?」

「その通りです」

黒木涼は私の腰に腕を回し、頬に軽くキスをした。

「愛しています」

愛しています!?

私は危うくよろめきそうになった。前世で、彼はその言葉を一度も口にしなかった!

「北野さん、何かコメントはありますか?」

私は深呼吸をして、とびきりの笑顔を見せた。

「とても幸せです」

案の定、「アカデミー賞の新星、プロデューサーとホテルで熱愛」という記事が、その日のトップニュースを飾った。

B市の自宅に戻ると、私の良い気分は一瞬で吹き飛んだ。

ドアを開けると、父の北野健一がリビングで怒鳴り散らしていた。顔は土気色で、こめかみの血管が浮き出ている。

「北野羽月!この恥知らずな売女め!男と寝泊まりしやがって!」

売女?前世では三年間も我慢してやったけど、今回はそうはいかない!

それでも私は怒りを抑え、傷ついた表情を装った。

「羽月ちゃん」

吐き気のするような甘ったるい声がした。

「どうしてそんなに衝動的なの?あなたのキャリアに良くないわ……」

見上げると、継母の橋本日葵がソファに座っていた。四十五歳にしては手入れが行き届き、完璧にセットされたウェーブヘアは今なお美しい。だが、その精巧な顔の下にどれほど毒々しい心が隠されているか、私は知っている。

黙れ!この人殺し!

彼女の顔を見ると、咲弥が死んだ時の光景が再び脳裏をよぎる。私の小さな咲弥ちゃん、まだ三歳で、青い瞳と天使のような笑顔をしていた。目の前に座るこの女が、彼女のミルクに毒を盛り、苦しみながら死んでいくのを見ていたのだ。そして、娘を失って鬱になった私も、いずれ彼女の計画によって「事故死」させられた。

爪が手のひらに食い込むほど、拳を固く握りしめた。

義理の妹である北野千夏は嫉妬に狂い、「ガシャン!」とワイングラスを床に叩きつけた。

「どうしていつもあなたなのよ!どうして良いことは全部あなたのものになるの!」

彼女は顔を歪めて金切り声を上げた。

見慣れた、そして憎むべき三つの顔を前にして、私は逆に冷静になった。

焦るな。ゆっくりやればいい。今回は、一人一人にきっちり代償を払わせてやる。

「お父さん」

私は北野健一の目を見つめ、静かに言った。

「これは、チャンスかもしれません」

リビング全体が静まり返った。まさか私がこんなことを言うとは、誰も思っていなかったのだろう。

「どういう意味だ?」

北野健一が眉をひそめた。

「黒木涼はH市で最も力のあるプロデューサーの一人です。彼と一緒にいることは、私のキャリアにとってプラスこそあれ、マイナスにはなりません」

私は淡々と言った。

「それに、彼は私のことを愛していると言ってくれました」

橋本日葵の表情が瞬時に変わった。彼女の計画は私を破滅させることだったのに、私が災いを転じて福となしてしまったのだから。

驚いた、親愛なるお義母様?ゲームはまだ始まったばかりよ。

「あなた……」

北野千夏は怒りに震えた。

私は階段へ向かい、彼女たちを振り返った。

「疲れたので、休みます。今夜は黒木さんが夕食に迎えに来てくれますから」

呆然と見つめ合う三人をおいて、私は優雅に二階へと上がった。

橋本日葵、北野千夏、そして北野健一……今世では、前世であなたたちがしたことのすべてを償ってもらう。咲弥の復讐、私自身の復讐――一つ残らず、きっちりと精算してあげる。

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