第2章

北野羽月視点

翌朝、自室で今後の身の振り方を考えていると、不意に携帯が鳴った。発信者の名前を見て、私は凍りついた。

黒木涼。

なぜ彼の方から連絡を?前の人生では、一夜限りの関係を持った後、彼は何日も冷たい態度を取り続け、渋々連絡してきたというのに。

「もしもし、黒木さん」

私は電話に出た。

「北野さん、お邪魔ではなかったかな」

彼の声は相変わらず低く、人を惹きつける力があった。

「話がある。昨日のことだ」

やはり、彼もこの状況の複雑さを理解しているのだ。

「マスコミの報道についてですか?」

私は無邪気を装って尋ねた。

「それだけじゃない。提案があるんだ。会わないか?今、H市のオフィスにいるんだが、時間は?」

時計を見る――午前十一時。

「わかりました。一時間後にそちらへ」

黒木涼の制作会社は、H市ヒルズの麓にある近代的なビルに入っていた。彼のオフィスは洗練されていて豪華絢爛、床から天井までの窓からはH市の壮大な空際線が一望できた。

彼は黒いスーツを身にまとい、デスクの後ろに腰掛けていた。その姿はまさに威厳あるビジネスエリートそのものだ。背後から差し込む太陽光が、金色の後光のような効果を生み出していた。

認めざるを得ない。この男は抗いがたいほどの魅力を持っている。

「どうぞ、お座りください」

彼は立ち上がり、ソファースペースを指し示した。

「何かお持ちしましょうか?」

「ブラックコーヒーで」

私はさりげなくソファーに腰を下ろした。

黒木涼はインターホンを押した。

「高田さん、コーヒーを二つ頼む、砂糖なしで」

心臓が跳ねた。砂糖なし?どうして私の好みがわかるの?

「私の好みをよくご存じのようですね」

私は探りを入れた。

黒木涼は振り返り、肩をすくめた。

「勘ですよ。女優さんは皆さん、体型に気を使っているでしょう?」

もっともらしい説明だが、何かが引っかかる。でも、今それを掘り下げる時ではない。

やがて、アシスタントがコーヒーを運んできた。カップを持ち上げて一口飲む――完璧な苦味。まさに私の好きな味だ。

「それで、黒木さん。話というのは何です?」

私は単刀直入に切り出した。

彼は私の向かいに座り、膝の上で両手を組んで身を乗り出した。

「世間が俺たちのことを恋人同士だと思っているのなら、いっそ本当にしてみないか?」

思わず噴き出しそうになった。本当にする?これじゃあ、前の人生とまったく同じじゃない。

「あなたは何が望みなの?」

私はカップを置き、彼の視線をまっすぐに見返した。

「単刀直入だな。賢い人間と話すのは好きだ」

黒木涼の口元が、感心したような笑みを形作った。

彼は立ち上がり、窓辺へ歩み寄った。

「『真実の下に』という企画がある。芸能界の秘密を題材にしたスリラーだ。出資者たちが二の足を踏んでいるんだが、君が参加すれば……」

「私たちの恋愛が話題になれば、企画に資金が集まる」

私は彼の言葉を継いだ。

「マスコミも観客もそれに食いつく、と」

「その通りだ」

彼は私の方を向いた。

「騒動を金儲けの種にする。君は主役の座を、俺はプロジェクトの資金を手に入れる。ウィンウィンだ」

「いい話ね」

私は意図的に間を置いた。

「でも、一つ条件がある」

「言ってみろ」

「脚本を読ませてほしい。役がそれに見合うものでなければ、この話はなし」

黒木涼は笑った。それは心からの、本物の笑いだった。

「いいだろう。脚本は車の中だ。後で渡す」

この男……どうして前の人生の時より、ずっと面白く見えるんだろう?

午後三時、私たちは高級カフェに姿を現した。その店は静かで上品な雰囲気で、H市のセレブたちが足繁く通う場所だった。

黒木涼は私服に着替えており、威圧感が少し和らいで見えた。私たちは窓際のテーブルを見つけた。

「何にする?」

彼はメニューを手に取った。

「ブルーベリーマフィン」

私は上の空で答えた。

店員が近づくと、黒木涼は迷いなく注文した。

「コーヒーを二つ、どちらもブラックで。それと、ブルーベリーマフィンとチーズケーキを一つずつ」

コーヒーとスイーツはすぐに運ばれてきた。黒木涼は優雅にコーヒーをかき混ぜると、プロジェクトの詳細を語り始めた。

「『真実の下に』は、芸能界の秘密を調査する一人の女優を追う物語だ。君が演じる鈴木玲奈というキャラクターは、聡明で勇敢、そして強い正義感を持っている」

鈴木玲奈……その名前に聞き覚えがある。

「彼女は何を調査するの?」

私は尋ねた。

「友人の『事故死』だよ。だがその背後に、巨大な陰謀が隠されていることに気づく。プロデューサー、投資家、果ては家族までもが犯人の可能性がある」

私の手が震え、コーヒーの雫がテーブルにこぼれた。

この脚本……どうして私の現実とこんなにも似ているの?

「どうした?」

黒木涼が心配そうに尋ね、すぐにナプキンを差し出してくれた。

「いえ、ただ、物語がとても興味深いと思って」

私は平静を装うのに必死だった。

「あなたが書いたの?」

「いや、友人が書いた。だが、脚本の改稿は手伝った」

彼の眼差しが深くなる。

「どうしても語られなければならない物語というものがあると感じてね」

私たちはカフェで二時間、企画のあらゆる側面について話し合った。黒木涼は驚くべきプロとしての能力とビジネスセンスを発揮し、細部に至るまで徹底的に検討していた。

前の人生でも彼は成功していたが、私にこのようなプロフェッショナルな魅力を見せたことは一度もなかった。

その夜、家に帰ると、ダイニングルームにはすでに夕食の準備が整っていた。クリスタルのシャンデリアが暖かい光を投げかけていたが、雰囲気は異様に張り詰めていた。

北野健一はテーブルの主席に座り、その表情は暗い。橋本日葵は彼の隣で優雅に座り、食事をしているように装っているが、実際には私たちの会話に聞き耳を立てていた。北野千夏はあからさまに私を睨みつけ、その目には嫉妬の炎が燃え盛っていた。

「今日はどうだったの、あなた?」

橋本日葵が甘ったるい声で尋ねた。

あなた?この人殺しが、よくも私を「あなた」なんて呼べるものだわ。

「別に」

私は平坦に言った。

「黒木涼と協業について話してきたわ」

「協業?」

北野健一が不意に顔を上げ、その目に欲望が閃いた。

「ええ、映画の協業よ」

私は意図的に言葉を切り、彼らの表情が変わるのを楽しんだ。

「黒木涼が大型作品に出資して、私がその主役をやるの」

ダイニングルームは瞬時に静まり返った。北野千夏でさえ、咀嚼するのをやめていた。

「本当か?」

北野健一の口調は怒りから興奮へと完全に変わった。

「黒木涼はトップのプロデューサーだぞ!羽月、お前は本当に運がいい!」

見て、この手のひらの返し様。反吐が出るわ。

「ええ」

私は冷たく北野千夏に視線を向けた。

「嫉妬しか能がないどこかの誰かさんとは違ってね」

北野千夏は怒りで顔を赤らめた。

「いい気にならないで!どんな手を使って彼を誘惑したか、わかったもんじゃないわ!」

「千夏!」

北野健一が叱りつけた。

「姉さんに向かって何て口の利き方だ!」

前の人生では、北野健一が私をかばうことなど決してなかった。お金は本当にすべてを変えることができるのだ。

「お父様の言う通りよ」

私は優雅に食べ物を口に運んだ。

「それに、黒木涼は私のことを愛してるって言ってたわ」

その言葉は、食卓に爆弾のように炸裂した。橋本日葵の手が震え、箸が皿に当たってカチャンと音を立てた。

「愛して……るって?」

彼女はどもった。

「ええ」

私は彼女の顔に浮かんだ恐怖を味わった。

「彼は私に完全に夢中なの」

橋本日葵、あなたの計画は完全に裏目に出たわね。私を破滅させるどころか、より良い機会を与えてくれたのだから。

北野千夏はついに我慢できなくなり、テーブルを叩いて立ち上がった。

「信じない!一晩寝ただけじゃない!彼があなたを愛するはずがないわ!」

「それが愛ってものなのかもしれないわね」

私は冷静に言った。

「誰もが経験できるわけじゃないけど」

北野千夏は怒りに震え、涙がこぼれそうになっていた。

この光景を見て、北野健一は慌てて場を収めようとした。

「まあまあ、家族なんだ。喧嘩はよせ。羽月、我々は皆、お前と黒木涼のことを応援している」

応援?前の人生では、あなたは大反対だったじゃない。

橋本日葵は無理に笑顔を作った。

「ええ、羽月が幸せなら、それでいいわ」

だが、彼女の目には悪意が見て取れた。間違いなく何か新しいことを企んでいる。

さあ、かかってきなさい、橋本日葵。他にどんな手があるのか、見せてちょうだい。

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