第8章
北野羽月視点
三日後、B市にある北野家の屋敷。
書斎の扉を開けると、父である北野健一が、あの巨大な革張りの椅子に座っているのが見えた。私に背を向けたその姿は、一晩で十年も老け込んだかのように、かつてなく丸まって見えた。
机の上には、裁判所の召喚状、法的通知、そして様々な財務書類が散乱している。彼の事業帝国は、急速に崩壊しつつあった。
「お父さん」と、私は冷たく声をかけた。
北野健一はゆっくりと振り返る。その顔には疲労と絶望が深く刻まれていた。目は赤く腫れ上がっている。明らかに泣いていたのだろう。
「羽月……」
彼の声はかすれていた。
「ようやく来たか」
私は彼...
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