番外編 陽一

目が覚めた。

五歳の眠子が少し離れたところに立っている。小さな指先から血の玉が滲み、まつ毛には涙がぶら下がっていた。

彼女は怯えと期待が入り混じった瞳で、こっそりと俺のことを見ている。

——いつからだっただろうか。俺が彼女に冷たくなったのは。

そんな考えが脳裏に浮かび、思い出が潮のように押し寄せ、俺を飲み込んでいく。

眠子が生まれる前、俺はどれほどこの妹の誕生を心待ちにしていたことか。

当時まだ子供だった俺は、毎日母の腹に耳を当て、その中の微かな心音に耳を澄ませていた。

母は畳の上に横たわり、優しく俺の髪を撫でてくれた。

「陽一」

母は穏やかな声で言った。...

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