第6章

陽一は眠子の手を掴み損ねた。

彼女は翻身して東京の夜の雑踏に消え、後には、呆然とした表情と言い出せなかった言葉だけを抱えた彼が、その場に立ち尽くしていた。

眠子は銀座の喧騒を通り抜けていく。きらびやかなネオンサインと、次の目的地へと急ぐサラリーマンたち。

彼女の顔に浮かぶ涙の跡に気づく者は誰もいない。もうじき死ぬ女がどこへ向かうのか、気にかける者もいなかった。

陽一は元の場所に立ち尽くし、腕は宙に浮いたままだった。

眠子が最後に彼に向けた一瞥。その顔に浮かんだ苦痛の表情は、彼女とは何の関係もない。

二十数年間、彼は一度たりとも彼女を理解しようとせず、妹としての温もりを与えたこともなかった。そして今、彼女が死にかけていると知って見せた表情は、罪悪感という名の仮面に過ぎない。

眠子は彼の憐れみを必要としていなかった。

そして後の日々、陽一は幾度となく思った。あの時、眠子を行かせてさえいなければ、と。

* * *

それからの日々、眠子は陽一との連絡を完全に断ち切った。

彼のLINEアカウントはブロックされ、送ったメッセージはすべて未読のままだった。

彼女は携帯番号を変え、考えうるすべての連絡手段を絶った。

陽一は眠子が借りていたアパートの前で見張りを始めた。

二十数年の血の繋がりは、紙切れのように薄っぺらいものだった。

陽一は病院へ向かった。

医師はただ溜息をついて言った。

「一刻も早く彼女を見つけて治療を受けさせてください。さもなければ、本当にあと三、四ヶ月の命です」

「どうしてこんなことに……」陽一の声は低く、悲しみに沈んでいた。「彼女はまだ二十五歳なのに」

医師は溜息混じりに説明した。

「今の若い方々はストレスが大きすぎますから。ご自分の体を大切にされない」

「彼女はすべての治療案を拒否した、と?」

「はい。我々は化学療法と、可能性のある手術案を提案しましたが、神宮さんは積極的な治療は一切受けたくないと明確におっしゃいました。我々としては推奨しかねますが、それは彼女の権利ですので」

* * *

失踪から八日目、陽一はマンションの管理人を通して眠子の部屋を開けてもらった。

ドアを開けると、薬の匂いと腐った食べ物の匂いが鼻を突いた。眠子はもう何日も帰宅していないようで、冷蔵庫の中の弁当や牛乳は変質していた。

六畳ほどの部屋にはほとんど装飾がなく、必要最低限の家具だけが置かれている。

写真も、記念品もない。ここはただの一時的な仮住まいで、まるで眠子の人生のように、短く、何の痕跡も残さない場所だった。

寝室の畳の上には、割れた薬瓶と錠剤が散らばっていた。

ゴミ箱には、抗うつ薬「パキシル」の空箱と病院の予約票が山積みになっていた。

陽一は眠子の机の上に日記帳を見つけた。そこには彼女の病状の進行と、日々の苦痛の度合いが記録されていた。

最後のページにはこう書かれていた。『もう死は怖くない。ただ、自分のやり方でこのすべてを終わらせたい』

彼が部屋に入った時から頭上を覆っていた暗雲が、ますます色濃くなっていく。

すべてが、すべてが、逆らうことのできない事実を宣告しているかのようだった。

絶望的で、無力な事実を。

彼は灼けつくような日差しの下に立ち、思った。

「早く眠子を見つけないと……」

このままでは、生きている彼女に二度と会えなくなるかもしれない。

* * *

失踪から十二日目、陽一は眠子の親友である柚子に連絡を取った。

電話に出た女は機嫌が悪そうで、誰だと尋ねてきた。

「俺だ。眠子の兄の」

陽一は柚子が好きではなかった。十八の年に、いつの間にか妹の一番の親友になっていた、この不良少女が。

「何か用?」

柚子は不愉快そうだった。まあ、当然だろう。彼女も陽一を嫌っているのだから。

「眠子がどこにいるか知らないか?」

「眠子がどうかしたの?」

柚子の態度は一変して柔らかくなった。

陽一はしばし沈黙し、言った。

「あいつ、胃癌なんだ。末期の」

電話の向こうが数秒間沈黙し、それから物が割れる音と、抑えられた泣き声が聞こえた。

電話は不意に切られ、しばらくして陽一は再びその番号にかけた。

「頼む、眠子を見つけるのを手伝ってくれ」

「医者が言うには、今すぐ治療を受ければ、あと一、二年長く生きられるって」

だが、眠子の親友である柚子は、ただ嗚咽混じりに言った。

「数年長く生きることに、あの子にとって何の意味があるの? 陽一、あんたには全然わかってない!」

「埋め合わせはする。俺は……」

「埋め合わせ?」

柚子は彼の言葉を遮った。

「あの子が必要としてるのは、埋め合わせだと思うわけ?」

陽一は黙り込んだ。

「田中月子はあんたの従妹で、眠子はあんたの実の妹じゃないって言うの!?」

柚子の声は怒りで震えていた。

「知ってる? あいつはとっくに一度死んでるのよ!」

泣き声の混じった詰問が、鋼の刃のように、長い距離を越えて陽一の心臓に突き刺さった。

「あんた、知らないでしょうけど、神宮眠子はとっくに死んでるのよ」

「彼女が十八の時、学校帰りに暴行されたあの夜に、あの子の魂はもう死んだの」

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