第八章

 全面ガラス張りの窓辺に立ち、私はビルのエントランスで繰り広げられている茶番劇を、無表情に見下ろしていた。

 数十階という高さと防音ガラスに隔てられているはずなのに、神谷治世の断末魔のような絶叫が聞こえてくるような気さえする。かつては我が世の春を謳歌していたあの傲慢な男が、今はまるで負け犬のように警備員に阻まれ、尊厳の欠片もなく立ち尽くしている。

「お嬢様、警察を呼んで追い払いましょうか」

 背後に控えていた福山が尋ねる。

「いいえ」

 私は眼下に見える豆粒のような黒い影を見つめながら言った。

「通しなさい」

 現在の私をその目に焼き付けさせ、希望を完全に断ち切ってやらなければ...

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