第5章

夫である川島正臣が、この家に顔を見せるのはごく稀なことだった。

帰宅するたび、その手には決まって何かしらの土産が提げられている。私には高級ブランドの新作を、息子の川島亮一には目を見張るような高価な玩具や最新の学習教材を。数日もすれば、彼はまた慌ただしく高級車の後部座席に収まり、多忙な社長業へと戻っていく。

率直に言って、この生活は私にとって天国そのものだった。

有り余るほどの自由と潤沢な資金。面倒な夫婦のいざこざに頭を悩ませる必要もない。

毎月、湯水のように振り込まれる生活費さえあれば、銀座で最新作のバッグを眺め、表参道のカフェで優雅に時間を過ごし、気が向けば箱根の温泉にだ...

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