第8章

私は川島正臣の申し出を、一旦保留という形で受け入れた。

「本当の夫婦になる前に、まずは……恋愛から始めませんか」

ベッドの端にきちんと正座し、私は真剣な面持ちでそう提案した。

正臣はわずかに眉を上げる。まさかそんな返事が来るとは、微塵も予想していなかったようだ。

彼は少しの間黙考した後、ふっと口元を緩めた。

「……それは、いい考えだな」

それからの日々、正臣が家に帰ってくる頻度が目に見えて増えることはなかった。川島グループの総帥たる彼が、気まぐれにスケジュールを変えられるはずもない。

だが、メッセージアプリの通知やスマートフォンの着信は、明らかに増えていた。

『今...

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