第9章

「ママ、この問題、分かんない」

川島亮一は眉根を寄せ、目の前の算数の問題を指差した。

私はソファに深く腰掛け、デリバリーで届いたばかりのフライドチキンを堪能していた。罪深い油の香りが、リビングいっぱいに漂っている。

一方、亮一の食卓に並ぶのは、玄米ご飯に蒸した鶏むね肉、そして彩り豊かな温野菜。栄養バランスだけを考え抜かれた、味気ない健康食だ。これは決して私の意地悪ではなく、『悪役の継母』という設定を守るための、尊い犠牲なのだ。

「あら、あなた優等生じゃなかったの? こんな小学校レベルの算数も解けないなんて」

私はわざと冷たく言い放ちながら、カリカリでジューシーなチキンをこれ...

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