第9章
「ママ、この問題、分かんない」
川島亮一は眉根を寄せ、目の前の算数の問題を指差した。
私はソファに深く腰掛け、デリバリーで届いたばかりのフライドチキンを堪能していた。罪深い油の香りが、リビングいっぱいに漂っている。
一方、亮一の食卓に並ぶのは、玄米ご飯に蒸した鶏むね肉、そして彩り豊かな温野菜。栄養バランスだけを考え抜かれた、味気ない健康食だ。これは決して私の意地悪ではなく、『悪役の継母』という設定を守るための、尊い犠牲なのだ。
「あら、あなた優等生じゃなかったの? こんな小学校レベルの算数も解けないなんて」
私はわざと冷たく言い放ちながら、カリカリでジューシーなチキンをこれ...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
縮小
拡大
