第8章

沙織の視点

 半年後。

 日村がノックして入ってきたとき、私は執務室の大きな窓の前に立ち、パリのセーヌを見下ろしていた。

「八代田様、谷平さんの件です」

 彼女は書類をデスクに置く。声色は、必要以上に慎重だった。

 私はすぐには手を伸ばさず、窓の外を見続けた。空は澄んだ青。遠くのエッフェル塔が、金色にきらりと光っている。

 この半年、私はカウンセリングを受けてきた。医師曰く、PTSDは少しずつ快方に向かっているらしい。悪夢を見ることはある。それでも、あの頃みたいに飛び起きることはなくなった。

 体も戻りつつある。医師には「もう妊娠は難しいかもしれない」と告げられたけれど、私は養...

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