第6章

 一人でタクシーの後部座席に座り、私はスマホを固く握りしめていた。

 ここ何年も、彼のメッセージを返信しなかったのはこれが初めてだった。

 運転手がバックミラー越しに私を一瞥した。

「お嬢さん、どちらまで?」

 私は一瞬躊躇い、そして言った。

「柏木家へ」

 私のアパートではなく、柏木家。

 幼い頃から育った場所。かつては私の未来の家になると思っていた場所。結局、そこも私の家ではなかった。

 どうして帰るの?と自問する。

 おそらくは習慣のせい。あるいは、答えが必要だったからかもしれない。

 柏木家の門前に立つと、柏木静子さんが飛び出すように駆け寄ってきて、私を抱きしめた...

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