第66章 俺を誘惑しているのか?

スティーブンは若い頃から天才だった。彼がメガホンを取った映画で、ヒットしなかった作品はない。

自らの手で、映画界の神話を打ち立てた男。

彼が育て上げたチームもまた、精鋭中の精鋭だ。

映画監督を志す学生で、彼を偶像にしない者はいない。なりたい。追いつきたい。できるなら、追い越したい。

だが今のスティーブンは滅多に表に出ない。妻子と休暇に専念しているらしい――そんな噂ばかりが先に立ち、会うのは雲を掴むより難しいと言われていた。

立花郁葉は、ここへ本気で給仕をしに来たわけじゃない。

更衣室に預けていた荷物を手に取り、彼女はそっと二階へ上がった。ちょうどパーティーは伏見行哉の到着で沸き、...

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