第1章
廃墟の塔の門は、たいして高くなかった。まぐさの下に空っぽの木箱を二つ積み、頭上の鉄の鉤に縄を通して、その上に乗る。
もうすぐ帰れる。
城壁の向こうのどこかで、血月の花火がまだ続いていた。赤と金――毎年変わらない色。ここからでも群衆のざわめきが聞こえる。みんな、いい夜を過ごしているのだろう。
私は木箱を蹴り払った。
痛みは即座に来た。喉も、息も、全部がいっぺんに締め潰される。思考の輪郭が、ふにゃりと溶けはじめた。
私はこの世界に少女として召喚された。自分の人生から引きずり出され、互いをかろうじて許容し合う四つの派閥がひしめく王国へ放り込まれ、同意した覚えのない契約に縛られた。条件は単純だった。四派閥の代表のうち少なくとも一人から「本物の絆」を得れば、私は帰れる。向こうの時間は、私が消えた瞬間で凍りついたまま。家族は、まだ待っている。
標的は四人。猶予は二十一年。どのルートも、ことごとく潰れた。
今夜が最後。
契約が下した評決は一時間前だった。ケイランが宴席で立ち上がり、イゾルデの名を口にした、そのときに。
だから計算は終わっていた。出口はひとつしかない。
私は、そこへきっちり身体を預けた。
耳の奥が圧迫されるなか、誰かが私の名を叫んだ気がした。
次の瞬間、顔面に水の塊が叩きつけられた。
私は勢いよく落ち、咳き込みながら門にすがりつく。視界が戻ったとき、私は地面に転がっていて、首には縄擦れが生々しく残り、目の前には誰かが立っていた――踏みつけたくないものを見下ろすような目で。
灰色の儀礼衣。指には祈りの数珠。足元には空の樽。
その顔を、私は知っている。
「ケイラン――」
止める間もなく、言葉がこぼれた。
「やめろ」表情は揺れない。「お前が俺をそう呼べる立場じゃない」
そうだろう、ね。
ケイラン・ヴォス。黄昏の宮廷の後継者にして、アウレヴェールの吸血鬼派閥で最も恐れられる名。そして、私が三日間生かし続けた男でもある。廃坑に隠れていた彼の血統を根絶やしにしようと、他派閥が血眼で狩っていたとき、私は捜索隊を別方向へ誘導し、散り散りになるまで引き回した。戻ったときの彼は半死人で、原動力は憎悪と、私が分け与えられるぶんの血だけだった。
そのあと、彼は私に刻印を施そうとした。守りだと言った。血の刻印があれば、私の存在を感知できる、意識に繋ぎ留めておける――そう。
刻印は定着した。だが、転化は起きなかった。
召喚者であること、この世界に「属していない」ことが原因なのか、身体が変化を拒んだ。刻印だけが残った。壊れ、未完成のまま、手首に刺さった抜けない棘みたいに。
それから私は穢れた伴侶と呼ばれた。血が間違っている、刻印は失敗、称号付きの凶兆。
彼は慰めのように側室の地位を与えた。私は、それに意味があると自分に言い聞かせた。
四年前のことだ。
四年前の血月の夜、私は協定評議会で彼の隣に立ち、ほんの一瞬だけ――心底馬鹿みたいに――契約が閉じるのだと思った。そこへイゾルデが現れた。手紙と、頬の痣と、私が彼女にした「はず」だという話を携えて。彼女は転化できた。失敗した刻印も、棘もない。私にはなれないものになれる。そしてすべては、一週間で崩れた。コルヴィンは一言で私を家業の工房から追い出し、ケイランは説明もなく私を廃墟の塔へ回した。ルーエンは誓いの烙印を使者に持たせて返し、ファエロンはその日の午後に絆を解いた。扉が閉まるみたいに静かに。
水を運び、リネンを洗い、口にする言葉の一つ一つが証拠扱いされる日々が四年。
そして今、イゾルデが戻り、ケイランは大勢の前で彼女の名を呼び、手首の刻印は冷え切り、私は首に縄擦れを残したまま廃墟の塔の外の土に座り込んでいる。
ケイランが指を鳴らす。衛兵が二人前へ出て、私を引き起こした。
彼は私の喉の痕を見た。その表情を何かがよぎる――心配ではない。
「廃墟の塔の門なんて、舞台にもなりゃしない」彼は言った。「それでも、もう演じてるつもりか」
喉はまだ灼けるように痛い。それでも私は言葉を押し出した。
「管理官ヴォス」声を平らに保つ。「塔がそんなに僻地なら、なぜここに? わざわざ私を見に来たんですか」
顎が強張った。ほんの一瞬だけ。
「イゾルデが今夜戻った。再会の場で騒がれるのは御免だ」彼は衛兵に向き直る。「荷物を出せ。門の外へ」
まず私の包みが投げ出された。
次に、私。
私は城壁の外の道に座り、敷居の上に立つ彼を見上げた。祭りの灯りを背負った彼は、問題が問題でなくなるまで見下ろすように私を見下ろす。
「外へ出たら」彼が言う。「二度と、俺がお前を見つけると思うな」
私は見上げて笑った。
それでいい。
立ち上がり、包みを拾い上げ、外街道へ向き直る。協定の崖は壁のすぐ先にある。塔の窓から四年間、毎朝見てきた場所だ。
縄より近い。
