第36章 早瀬信祐のコート

竹内葵は意外だった。ぱらぱらと降る雨がフロントガラスを叩き、視界を薄く滲ませていくのに――早瀬信祐の端正で冷ややかな横顔だけは、くっきりと瞳の奥に焼きついている。

少しも、ぼやけない。

こんな雨の日でも、彼は陰りひとつ見せなかった。まるで周囲の光が、いつだって彼のために灯っているみたいに。

早瀬信祐が指を折り、コンコンと窓を叩いて降車を促す。

竹内葵は我に返り、ハザードを点けてドアを開けた。

傘は車内にない。とっさに手で雨を避けようと腕を上げかけた、その瞬間――冷たい雨粒は、予想に反して顔に落ちてこなかった。

見上げると、頭上に黒い傘が差し出されている。

葵は固まった。視線は、...

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