第67章 あなたが一番大切

佐伯家の本邸は黒沼山の中腹に建っている。山道はくねくねと続き、午後の陽光が雲間から屈折して差し込む。枝先に残った雪はぽつぽつと溶け、「ぽた、ぽた」と落ちる水音が、まるで心地いい旋律みたいだった。

竹内葵は、ここへ来るたびにこの景色に見入ってしまう。

春夏秋冬――山の表情はいつだって違う。

葵は唇をきゅっと結び、膝の上で手を握りしめた。指先が白くなるほど力が入っているのに、表情だけは静かだ。車が敷地へ入っていくのを、ただ黙って見つめていた。

門のほうから連絡を受けた佐伯佳恵子は、慌ててティーカップを置き、邸の玄関へ出て様子をうかがった。

ほどなくして、黒いワンボックスが遠くから近づい...

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