第79章 早瀬環奈

一度会っただけとはいえ、竹内葵はよく分かっていた。新庄夫人は姑の結城夏帆と仲が良く、今では地下の男娼業界にも顔を出す常連だということを。

バッグのストラップを握る指先が、じわりと白くなる。

よりによって、なんでこの人に……!

もし新庄夫人が、今日、法律事務所で自分に会ったことを結城夏帆に話したら――夏帆は間違いなく、こちらを疑う。

胸の内では荒波が立っていても、表情だけは崩せない。葵は品よく笑ってみせた。

「まあ、新庄夫人。偶然ですね。どうして法律事務所に?」

「んー、くだらない揉め事よ。あなたの耳を汚すのも何だし、やめとくわ」

新庄夫人と新庄家の当主は政略結婚だ。息子と娘が一...

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