第84章 海へ突き落とす

夕暮れ。午後じゅう重たく垂れ込めていた空から、ようやく細かな雪がぱらぱらと舞いはじめた。

冷たい風が身を切る。

竹内葵は結城夏帆の車で庄司家の本邸へ戻った。

夕食を終えると、夏帆は彼女を庭へ連れ出し、君子蘭の鉢をいくつか選ばせた。育て方の要点やちょっとしたコツまで、丁寧に教えてくれる。

四鉢を選び終えると、夏帆は先に室内へ入り、服についた雪を払った。葵は庭に数分だけ立ち尽くし、空からくるくると落ちてくる雪片を見上げる。

傘の外の雪を受け止めようと、無意識に手を伸ばしかけた、その途中で。

ひんやりした大きな手に、ふいに握られた。

葵は息を呑み、顔を横に向ける。次の瞬間、眼鏡の奥―...

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