第96章 ブラックコーヒー

早瀬信祐はそのまま彼女を抱き寄せ、十数メートル先まで歩いた。背後でエンジンがかかり、車が走り去っていく音がして、ようやく足を止める。

竹内葵も、遠ざかっていくタイヤの音を聞き取って、長く息を吐いた。顔を上げた瞬間、深く沈んだ目にぶつかる。

視線が空中で数秒絡み合う。葵ははっとして彼の腕の中から弾かれるように離れ、気まずさをごまかすように頬を軽く掻いた。

「ごめんなさい、さっきは……急だったから、とっさに……」

早瀬信祐は小さく頷き、気にしていないとでも言うように無表情のままカフスを整える。そして何気なく尋ねた。

「車で来たのか」

葵は彼の顔に不機嫌さを見つけられず、「タクシーです...

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