第116章 彼女が道を誤ったと思い込む

茜音POV

言い終えると、まるで汚いものに触れられたみたいに、私は悟られない程度に一歩だけ引いた。

それからすっと身を翻し、ドアを押し開けて、そのまま出ていく。

背後から、神崎健司の癇癪じみた低い唸りが飛んできた。

「茜音! 調子に乗るな! 後悔するぞ!」

振り返らない。

ドアが背中で閉まり、彼の声はそこで途切れた。

個室の中は静かで、鼻先にふわりと香りだけが残っている。耐えきれず、私は小さくくしゃみをした。

「寒かった?」

少し離れたところから、穏やかで澄んだ男の声。

ソファから、一之瀬敬介が立ち上がる。白いタートルネックに金縁眼鏡。足早にこちらへ来て、心配そうに覗き込...

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