第26章 取引、婚約者のふり

茜音視点

腕にはめた高価なバングルを見つめながら、私はどうにも落ち着かなかった。

ひと騒動のあとで藤堂博文もさすがに疲れたらしく、看護師に促されて休息に入った。

藤堂律と私はそろって病室を出て、並んでエレベーターへ向かう。VIPフロアの廊下は、互いの呼吸すら聞こえそうなほど静かで――空気だけが妙に気まずい。

二人で乗り込むと、金属の扉がゆっくり閉まった。狭い箱の中に残るのは私たちだけ。彼の身体から漂う、澄んだウッドノート。さっき、距離を詰められたときと同じ匂いがする。

私は無意識に壁際へ寄り、鏡みたいに磨かれた扉へ視線を落とした。そこに映る、二つの影。

エレベーターは静かに降りて...

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