第30章 契約結婚

茜音視点

狭い車内に、死んだみたいな沈黙がじわじわと染み広がっていく。空気そのものが凍りつき、肺の奥まで冷たくなる感覚。

藤堂律はハンドルを握る指の関節が白く浮き、底の見えない双眸がルームミラー越しに私の顔へ落ちていた。

私が平然としているのが、気に食わないのだろう。いや――きっと、彼みたいな「選ばれる側」の男は、拒まれることに慣れていない。

周囲の気配が、じりじりと重くなる。車内の温度まで、数度下がった気がした。

それでも彼は怒らなかった。分かりやすい感情の揺れも見せない。

……長い間を置いてから、律が口を開く。声は驚くほど平坦だった。

「いい」

あまりにあっさりした返事に...

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