第36章 あなたが茜音さん!

茜音視点

昨夜のあの騒ぎも、突然鳴り落ちた雷も――私の中には何ひとつ残らなかった。

翌朝。目を覚ますと、窓の外はちょうどいい明るさだった。ベッドサイドのスマホは静かに横たわり、画面だけが淡く点いている。数分前に届いた新着メッセージ。差出人は藤堂律。

「何食べたい?」

短い。無駄がない。いかにも彼らしい。

私は一瞥して、指だけでさらりと返す。

「もう食べた」

返信は、ほとんど間髪入れずに届いた。

「じゃあどこ行きたい?」

こめかみを指で押さえ、軽く息を吐く。……この男、婚約者という役に入り込みすぎじゃない?

「出勤」

そう打ってスマホを置き、洗面に向かって身支度を整える。...

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