第68章 フルアテンド

茜音POV

背筋の伸びた制服姿のクルーが近づき、恭しく藤堂律のコートを受け取った。けれど視線だけは、どうしても私へ滑ってくる。驚きと、息を呑むような好奇心――そして、ほんの少しの見惚れ。

「うそ……藤堂さんが女の人を連れてくるの、初めて見た。しかも外部非公開のプライベートヨットだぞ」

そんな囁きが、潮の匂いに混じって耳へ届く。

ディナーは最上階のテラスに用意されていた。腕の立つシェフがすでに控え、夜の海を背景に、銀器とグラスだけが静かに光っている。

藤堂律は私の椅子を引いた。所作の一つ一つが丁寧で、過剰な演出ではなく、ただ自然に身体へ染みついた気遣いだった。

料理は繊細で、私の好...

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