第9章 挑発

藤堂家本邸の書斎では、藤堂博文が孫の藤堂律と向かい合っていた。

「A.KANE先生だがね。若くして名も立っているし、見た目も悪くない」

藤堂博文の声には、探るような含みがあった。

藤堂律の返事は、冷たく短い。

「結構です」

「まったく、お前という子は……」

「おじい様」

藤堂律が言葉を遮った。

「菅田夢香の件、二度と繰り返さないでください」

数か月前のことだ。藤堂博文は「家同士が古い付き合いだ」と言って藤堂律に菅田夢香との顔合わせを用意した。律は一度だけ会い、そのあとは徹底して距離を置いた。

「また勝手に縁談を持ち込むなら――」

藤堂律は椅子から立ち上がり、声の温度を落...

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