第90章 婚約者

茜音POV

ひととおり片づけを終えると、中村佳代が私のデスクへ小走りで戻ってきた。声を落としているのに、抑えきれない苛立ちと不安が滲んでいる。

「社長、さっき連絡が入りました。あの梅宮早絵……出てきたそうです」

書類をめくる手は止めない。視線も上げない。

「うん」

淡々と返し、ページの隅にサインを走らせる。ペン先は容赦なく鋭い。

けれど中村佳代は焦ったまま、両手を机の縁に突いて身を乗り出した。

「社長、たぶんご存じないです。あれ、保釈です! しかも本社が直で指示出して、相当コネ使ったらしくて……警察署のほうも渋々って感じで放したって。つまり本社にデカい後ろ盾がいるってことですよ...

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