第5章

 高級料亭『雅楽』。そこは、議員たちが愛人を連れ込み、大企業の社長たちが決して表沙汰にできない取引をまとめる、そんな場所だ。

 真っ白な麻の座布団。備前焼の徳利と盃。影のように音もなく動く仲居たち。

 まさに、美津子さん好みの店だ。

 店に入る前、格子窓越しに彼女の姿が見えた。すでに席に着いている。相変わらず完璧だ。髪はいつもの夜会巻き。喉元には真珠。古き良き上流階級の気品そのものだ。

 だが、湯呑みを持つその手は――。

 強く、強張っていた。

 美津子さんの手が震えているのなど、見たことがなかった。園遊会、慈善茶会、親族の集まり……この五年間、彼女の手は常に揺るぎなく、完全に制...

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