第10章 結婚しない

退社間際、桐生冬紀は社長室へ入った。書類を置き、それから口を開く。

「奥さまからお昼にお電話がありました。今夜、食事に来てほしいと。御堂社長、もう半年お戻りになっていません」

御堂怜央は露骨に眉をひそめた。

「おまえ、うちとよく連絡してるのか」

「いいえ」

桐生冬紀は淡々と答える。

「いつも奥さまのほうからです」

御堂怜央は腕時計を一瞥し、車のキーを放ってよこした。

「運転しろ。柚葉は運転手に送らせる」

桐生冬紀は彼の背中を追いながら、どうしても聞きたい言葉が喉元までせり上がるのを感じた。けれど、唇は動かない。

答えを聞くのが怖い。

もう予感している答えを。

……

...

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