第106章 坂本裕也

桐生の母は五日間の入院を経て、ようやく退院できることになった。

退院の日、桐生冬紀は友人に車を借り、両親を風町まで送り届けた。ついでに家で昼食まで一緒にとる。

昼食を作ったのは桐生の父だった。食後、冬紀が黙々と皿を洗っていると、胸の奥に、かすかな「家族に戻った」みたいな感覚が灯る。

そのとき、リビングのほうから話し声がした。

手を拭いて出ていくと、姉と義兄が、娘を連れて見舞いに来ていた。外婆――祖母の顔を見に来た、ということらしい。

冬紀は病院で一度だけ彼らに会っている。とはいえ何年も会っていなかったうえ、姉は結婚して家庭を持ち、生活圏も付き合いも変わっている。距離ができるのは自然...

ログインして続きを読む