第139章 まだ済んでいない

桐生冬紀は、できるだけ彼と距離を取りたかった。彼が言葉を発するたび、背中越しに胸板がかすかに震えるのまで伝わってくる。けれど鞍は一人用、馬の背だってこの広さだ。避けようがない。

「御堂社長のお気持ちはありがたく頂戴します。ですから、降ろしてください!」

最後のほうは、ほとんど歯ぎしり混じりだった。

御堂怜央は取り合わない。馬腹を軽く蹴る。

「っ!」

桐生冬紀の手にかかれば二歩進ませるのも大変だった馬が、御堂怜央の合図ひとつで息を吹き返したみたいに、蹄を鳴らして一気に駆け出す。

馬に乗ったことがある人なら分かる。馬上でバランスを保つのは難しい。まして桐生冬紀は完全な初心者だ。揺さぶ...

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