第162章 彼の頬を叩く

パァン——

闇に沈んだがらんどうの部屋で、その音だけがやけに鮮明に響いた。

御堂怜央が生きてきた二十八年で、平手を食らったのはたぶん初めて――いや、数か月前にも一度、彼女に叩かれている。

あのとき、彼は言った。

ただの道具として使っていただけだ、と。

けれど今度の一発は、桐生冬紀が叩き込んだ力が桁違いだった。

冬紀はソファに横たわったまま、怒りで胸を上下させる。互いに闇の中で視線だけをぶつけ合った。

遮光カーテンが優秀すぎて、何も見えない。御堂怜央がどんな顔をしているのかも、冬紀には分からない。

たった三十センチも離れていないのに。

怜央の呼吸は乱れない。ひやりとした、凛と...

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