第183章 彼だ

そのとき――男の声をかき消すほど大きな叫びが闇を裂いた。

「桐生冬紀!」

男の足取りが、ぴたりと止まる。

闇と光の境目、その黒い線の上で。

走りながら桐生冬紀は、怯えたまま顔を上げた。

錯覚だろうか。

――いま、誰かが自分を「冬紀」と呼んだ気がした。

「桐生冬紀!」

桐生冬紀は思わず足を止めた。

遠くから二つのライトが近づいてくる。次の瞬間、それはヘッドライトになり、数十メートル先から彼女を真っすぐ照らし出した。

まるで天から落ちてきた一本の光。

森は広い。道は一本じゃない。

けれど道標がない以上、どこが正解かなんて分からない。土地勘のある人間がいなければ、結局は運任...

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