第212章 恩人

桐生冬紀がまず目を向けたのは、彼の腹部の傷だった。

――見えない。血と肉がぐちゃぐちゃに滲んでいて、どこがどう裂けているのか判別できない。

失血のせいで顔色は青白い。けれど白いぶん、墨みたいに濃い眉と瞳がいっそう深く見えた。

桐生冬紀は言った。

「黒崎さんがあれだけ重傷なら、黒崎教授がそっちを優先するのは当然です」

御堂怜央の視線も彼女の顔をなぞり、冷たく落ちる。

「随分とかばうな」

医師が準備を整え、麻酔の注射器を手に桐生冬紀のベッドへ来た。

「患者さん、これから縫合に入ります。おしゃべりはやめてくださいね」

桐生冬紀は唇を引き結び、小さくうなずく。息を止めるみたいに、胸...

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