第225章 最も良い人

ドアの外にいた黒崎悠真は、ノブに手をかけたまま動きを止めた。防音の甘い病室から、会話がそのまま漏れてきたからだ。

伏せたまぶた。レンズに光が反射して、瞳の奥の色は読み取れない。ただ、全身からふっと力が抜けたように、どこか寂しげな様子だった。

自分が水をやり続ければ、芽を出しかけたはずの花――そう思っていた。けれどそれは、ただの錯覚だったのかもしれない。種は最初から、目覚めてなどいなかった。

しばらくして、彼は音も立てずに踵を返し、その場を去った。

御堂怜央が鼻で笑う。

桐生冬紀は拭き終えるとすぐに背筋を伸ばし、淡々と言い放った。

「御堂社長、私のことを分かったふうに言わないでくだ...

ログインして続きを読む