第231章 お父さんに何かあった

「……」

桐生冬紀は、損をするほど罵り言葉が出てこない。怒れば怒るほど、なおさらだ。奥歯をぎり、と噛みしめ、胸の奥が憤りで上下する。

御堂怜央は、そんな彼女のほうが好きだった。いつもの冷淡で理性的な顔より、ずっと――生々しい。

そのまま口づけて、呼ぶ。

「冬紀ちゃん。ちゃんと合わせろ」

キスには煙草の匂いが混じっていた。冬の夜、暖炉に火が入った部屋を思い出させる匂い。勝手に、柔らかなぬくもりが胸に差し込んでくる。まして、こんなふうに名前を呼ばれたら。

けれど桐生冬紀は、息を乱しながらも沈まなかった。欲を満たすために作られた、偽物の優しさに溺れるつもりはない。

「……その呼び方、...

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