第292章 ほかに誰が見たのか

柳原礼治は覚えている。榎本クルーザーで、桐生冬紀がドレスを着ていたことを。

髪をまとめ、かんざしを挿し、階段の手すりに指を添えて上がってきた。歩くたびに、ふわりと揺れて――目を奪われた。

あのときからだ。自分が彼女に興味を持ったのは。

桐生冬紀が淡々と言う。

「柳原社長、オーダーなら人を間違えてます」

柳原礼治はお構いなしに続けた。

「腕のいいデザイナーを知ってる。今度、同じようなのを一着仕立てて贈るよ。サイズはいくつ? それとも週末、俺が直接連れて行こうか。やっぱり採寸してオーダーのほうがいい」

「……」

桐生冬紀は気づく。柳原礼治には、とんでもない特技がある。自分の聞きた...

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