第296章 あの子供

桐生冬紀は聞き取れなかったみたいに振り返った。

「御堂社長、何かおっしゃいました?」

部屋は床暖房がよく利いている。御堂怜央はスーツの上着を脱ぎ、腕に掛けていた。白いシャツに、濃いグレーのニットベストだけ。

袖留めをしていて、締まった前腕に筋の通ったラインが浮く。端正さと獣じみた気配が、同居していた。

この距離で、しかも彼は曖昧に喋るタイプじゃない。聞き逃すなんて、どれだけ上の空ならあり得るのか。御堂怜央は、彼女がわざと話を拾わないのだと察し、鼻で笑った。

「……いや。何でもない」

桐生冬紀はそのまま双子へ視線を戻す。

――本当に、返す気になれなかった。

御堂怜央が、どうして...

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