第300章 一線を越えないでくれ

桐生冬紀には、御堂怜央の真意がわからなかった。

家を贈るのは補償だとしても、花を贈って何の埋め合わせになるというのか。

彼女は手元のカードを見つめる。差出人の「御堂」は印字のはずなのに、無機質な文字の隙間から、男が自分の名を手書きで記す姿が浮かんでくる気がした。

かつて彼女は彼の秘書だった。契約書にサインする彼の名前を、何度も見てきた。字は端正で、やけに綺麗だった。

いちばん彼を好きだった頃は、彼が何をしても崇拝して見上げていた。暇さえあれば白い紙に、彼の筆跡を真似て書いて――

一度、それを見られたことがある。

彼は面白そうに眉を少し上げた。彼女は恥ずかしさで咄嗟に書類をかぶせ、...

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