第35章 婚約

成宮明人のひと言で、場の視線がいっせいに桐生冬紀へと流れた。

深い紫のロングドレスに身を包んだ冬紀は、その場にすっと立っている。表情だけがどこか空っぽで、精巧な人形――いや、磨き上げられた彫像みたいだった。

成宮家の両親は、実のところ冬紀をかなり気に入っている。とりわけ今夜、明人を連れて各所に挨拶し、そつなく立ち回ってみせた姿を見て、確信したのだろう。

彼らは分かっている。明人は商売の器じゃない。だからこそ、そういう才覚のある妻を迎えること――それが、彼らが嫁に求めてきた最大条件だった。

冬紀の家柄が高くない、と聞いてはいる。だが、むしろ都合がいい。扱いやすい。下手に家が強ければ、い...

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