第44章 仕事に戻る

御堂怜央はシャワーを浴び終え、全身鏡の前でシャツに腕を通すと、落ち着き払った手つきでボタンを留めていく。

スマホはキャビネットの上に無造作に置かれたまま。何も言わないから、桐生冬紀に届くのは、少し硬めの生地が擦れる「さ、さ……」という微かな音だけだった。

近すぎる関係には、こういう厄介がある。

見えなくても、音だけで勝手に映像が立ち上がるのだ。

黒が好きだ。黒いシャツに黒いスラックス。身体の線をいっそう細長く際立たせ、纏う空気まで冷たく研ぎ澄ませる。

ボタンを留め終えると顎を上げ、襟を整える。顎のラインはシャツの襟先と同じくらいくっきりしていて、ネクタイはいつだって正統派のウィンザ...

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