第64章 憂さ晴らし

桐生冬紀は顔色ひとつ変えない。

「お話は伺っています。男の子がお生まれになったそうですね。とても可愛らしいお子さんだとか。よろしければ、一度お会いできませんか」

「……」

近藤社長は彼女を一瞥しただけで取り合わず、そのまま車に乗り込んで去っていった。

ただし、帰宅ではない。向かったのはホテル。そこで開かれる業界サロンに顔を出すつもりらしい。

桐生冬紀は青雲グループ専属秘書という肩書きがある。入場自体は造作もない。とはいえ、他社の人間と愛想よく立ち回る気分でもなく、彼女は会場の隅に腰を落ち着け、黙って時間をやり過ごした。

近藤社長の席が散った頃合いを見計らい、桐生冬紀はすっと近づい...

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